パワハラ対策と働きやすい職場づくり
はじめに
ハラスメントとは,人を困らせること,嫌がらせのことをいいます。
最近は,セクハラ(セクシャルハラスメント),パワハラ(パワーハラスメント),マタハラ(マタニティーハラスメント),アカハラ(アカデミックハラスメント),モラハラ(モラルハラスメント),カスハラ(カスタマーハラスメント)など,ハラスメントに関する様々な言葉が使われています。
今回は,職場での対策が問題となっているパワハラについて取り上げます。
なぜ,ハラスメント対策が必要か?
まず,前提として,ハラスメント対策一般についてです。
なぜ,職場で,ハラスメント対策が必要なのでしょうか?
ハラスメント対策に適切に取り組まないと,企業は,以下のようなリスクを負うことになります。
① 人材流出
ハラスメントの被害に遭った従業員が,悪化している職場環境で働くことが嫌になり,出社しなくなったり,退職したりすることで人材流出のリスクを生じます。
② 職場の士気低下
ハラスメントの被害に対して適切な対応を怠ると,従業員も失望し,士気が上がらなくなり,業務が停滞するリスクを生じます。
③ 行政上の措置
ハラスメントのうち,セクハラやマタハラについては,男女雇用機会均等法で,予防措置や事後措置が義務づけられており,監督官庁から勧告を受けたり,企業名公表や過料といった制裁を受けるリスクが生じます。
パワハラについても,法令上の措置が議論されています。
④ 損害賠償
ハラスメントが発生した場合,適切な対応を怠ると,直接の加害者だけでなく,雇用主の企業にも,使用者としての責任を追及されるリスクが生じます。
パワハラとは
次に,パワハラについてです。
パワハラとは,一般的には,同じ職場で働く者に対して,
- 職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に,
- 業務の適正な範囲を超えて,
- 精神的・肉体的苦痛を与え,又は職場環境を悪化させること
をいいます。
ただし,定義が一義的に明確でない,具体的にどのような行為が該当するのか必ずしも明らかでない部分もあり,今後の法改正に伴って,国から指針が示される見通しです。
パワハラを巡る社会情勢
近年,パワハラが問題となるケースが増えているという指摘があります。
都道府県労働局へのいじめ・いやがらせの相談件数の推移は,以下のとおりです。
出典:厚生労働省HP
この統計からは,いじめ・いやがらせの相談件数が急激に増えていることが分かります。
国もこのような社会情勢を受けて,対策に乗り出しており,企業にパワハラ防止策に取り組むことを義務づける法改正が行われる見通しとなっています。
パワハラの類型
パワハラには,以下の類型があるされています。
- 身体的な攻撃型
例:暴行,傷害 など - 精神的な攻撃型
例:暴言,脅迫,侮辱,名誉毀損 など - 人間関係からの切離型
例:隔離,仲間はずれ,無視 など - 過大な要求型
例:業務上明らかに不要なことの強制,遂行不能なことの強制 など - 過小な要求型
例:業務上合理性がなく,能力,経験とかけ離れた程度の低い仕事の強制 など - 個の侵害型
例:プライベートなことに過度に立ち入る など
パワハラを生みやすい職場環境
パワハラを生みやすい職場の環境としては,以下のような特徴があると言われています。
- コミュニケーションが少ない
例:日常的な挨拶,会話が少ない,社内のやりとりがメール中心 など - ストレスが大きい
例:ミスが許容されない,長時間労働 など
また,パワハラは,したと感じる人が少ないのに対して,されたと感じる人の方が圧倒的に多いとも言われています。
つまり,気付かないうちにパワハラをしてしまっている可能性があるということです。この点には,注意が必要です。
ただし,パワハラの定義が必ずしも明確でないこと,人によって感じ方も違うことから,されたと感じる人がいれば,即,パワハラでもないことにも注意が必要です。
業務指導とパワハラ
セクハラの場合は,セクハラと疑われる言動をしなければセクハラになることはありませんが,パワハラの場合は,業務指導をしない訳にはいきません。
指導する立場の人たちからは,
- 指導したらパワハラと言われる
- 指導ができない
といった声も聞かれます。
どういったことを考えるべきかについては,以下のような点が指摘されています。
正当な業務指導との区別
① 指導の目的があるか
- 不当な動機,目的ではないか(単なる見せしめ)
- 業務との関連性があるか
- 単なる私的な目的ではないか など
② 指導方法は適切か
- 権限を逸脱し,裁量権の濫用となっていないか
- 社会通念上許容される範囲を超えていないか
- 人格権侵害になっていないか など
③ 受け手側
- 平均的な心理的耐性を持つ者を基準
- 受け手の状況も勘案(新入社員か) など
④ その他
- 行為の継続性
- 行為者側の数 など
業務指導は,企業の発展のためにも,そして,指導を受ける部下・後輩の成長のためにも,必要ですし,極めて重要なことです。
パワハラを恐れて業務指導を躊躇するようでは本末転倒ですし,部下・後輩のためにもなりません。
上司側は,情熱をもって指導することは大切ですが,以下の点に気をつけましょう。
指導 ≠ 恫喝
叱る ≠ 怒鳴る
また,部下・後輩の側も,理不尽な言動に対して会社に対応を求めることは必要ですが,なぜ指導を受けているのかを考えることが必要ですし,当然,仕事は楽しいことだけではありませんので,以下の点に気をつける必要があります。
苦痛 ≠ パワハラ
パワハラを生まない職場づくり
パワハラを生まない職場をつくるためには,組織だけ,上司だけでなく,部下も含め,職場全体での取り組みが必要です。
そして,安易に「パワハラ」という言葉で片付けないことも重要です。
問題の本質が見えなくなります。
その事象について,何が問題なのか,事実確認,分析が必要です。
- 法律問題?
- コミュニケーションの問題?
- 組織マネジメントの問題?
また,改めて,指導する側・される側も「ひとそれぞれ」という前提を確認することも重要です。
- 表現方法の得意不得意
- 理解力の差
- 打たれ強さの差
- ダメージの違い
パワハラをしないように気をつけることは確かに重要です。
しかし,問題の本質は,
働きやすい職場をどうつくるか?
前向きな取組が必要です。
一般的には,各企業で,以下のような取組みがされています。
- 組織としてのメッセージ発信
- 組織内ルールの整備
- 匿名アンケートによる実態調査
- 各種研修(全体研修,管理職研修,新人・若手向け研修)
- 組織内での周知・啓蒙
- 相談窓口の設置と相談対応
- 再発防止策の検討
パワハラ対策は,人が集まり,定着し,働きやすい,魅力的な職場づくりのために必要な問題としてとらえることが必要です。
また,組織,上司の側だけでなく,指導される部下や後輩の側も,自分達も一緒になって働きやすい職場をつくって行くという意識が重要だと考えます。
パワハラ対策の規定整備,問題事案の対応,各種研修のご要望がございましたらお気軽にお問い合わせください。
本コラムは令和元年5月22日に執筆されたものです。記載内容につきましてはその時点の情報をもとに作成されております。また、内容に関しましては、万全を期しておりますが、内容全てを保証するものではありませんのでご了承ください。