親権者の変更
親権者の変更を前提にしない
親権者を決める場合、夫婦間の話合いから始めます。このとき、「はやく離婚したいので、とりあえずどちらかの名前を記入しておく」「後でじっくりと話し合い、双方納得のいく形で親権者を改めて決め直せば良い」等と考えることがあるかもしれませんが、このようなことは絶対に避けなければなりません。
なぜなら、どちらかの気が変わって話し合いに応じないことがよくあるためです。
そして、一度親権者を決めると、両親の都合で簡単に変更することはできません。これは、生活環境が変わってしまうと、子どもの成長に悪い影響を及ぼしかねないからです。
また、両親の合意ができている場合でも、親権者を変更するためには必ず家庭裁判所の手続きが必要になります。
親権者を変更できる場合とは
父母間の協議・調停・審判・判決によって父母の一方が親権者と定められた後でも、子どもの利益のために必要があると認められる場合には、親権者を他の一方に変更することができる場合があります(民法819条6項)。
親権者の変更は、親権者の指定とは異なり、当事者間の協議だけで行うことはできません。家庭裁判所に調停または審判を申し立て、許可をもらう必要があります。
家庭裁判所が親権者を認める理由には、次のようなものがあります。
親権者の不在
親権者が死亡、あるいは行方不明になった場合、もうひとりの親に親権者を変更できることがあります。
親権者が適任でない
虐待や育児放棄、経済的な問題により教育を受けさせられない、病気により子どもの世話ができない場合などについては、子どもの養育に好ましくないとして、親権者を変更できることがあります。
不当な財産管理
親権者には子どもの財産管理権がありますが、不当に管理していると認められる場合、親権者を変更できることがあります。
親権者に育児実績がない
親権者ではない親であっても、子どもと暮らし続けている場合、親権者に変更できることがあります。
家庭裁判所に調停や審判を申し立てる
調停や審判の流れは、親権者の指定のときと同じです。調停や審判については、下記のページも併せてご参照ください。
子どもが15歳以上の場合は、子どもの意見を聴くことが求められており(家事事件手続法169条2項)、裁判所が子ども本人の意思を確認し、これが尊重されます。また、父母間で親権者変更の合意がある場合にも、判断材料とされます。
親権者の変更は、子どもの親以外にも、祖父母やおじ・おばなどの親族が申し立てることが可能です(民法819条6項)。ただし、子ども自身が申し立てることはできません。
申立ての方法
相手の住所地の家庭裁判所か、当事者が合意して定める家庭裁判所に申し立てます(家事事件手続法245条1項)。
必要書類
親権者変更の申立てには、福岡家裁では次の書類が必要となります。
申立書類
- 申立書類1「申立書」
- 申立書類2「事情説明書」
- 申立書類3「進行に関する連絡票(申立人用)」
- 申立書類4「連絡先の届出書」
添付書類
- 添付書類1「未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)」
- 添付書類2「申立人の戸籍謄本(全部事項証明書)」
- 添付書類3「相手方の戸籍謄本(全部事項証明書)」
費用
- 収入印紙1200円分(未成年者1人につき)
- 連絡用の郵便切手
調停での話合いがまとまらない場合
調停での話し合いがまとまらない場合は不成立として終了しますが、引き続き審判手続きで必要な審理が行われます。そして、最終的には審判によって、親権者の変更を行うかどうかの結論が示されることになります。
変更の届出
親権者の変更が確定した場合、確定した日から10日以内に、新しい親権者には市区町村役所の戸籍係に「親権者変更」を届け出る義務があります(戸籍法79条、63条1項)。
親権に関するその他の手続についても説明します。
親権の喪失
親権者が子どもの利益を著しく害している場合は、家庭裁判所に審判を申し立てて、親権を喪失させることができます(民法834条)。
この申し立ては、子どもの親族、未成年後見人、未成年後見監督人、検察官、児童相談所所長(児童福祉法第33条の7)が行うことができ、子どもの保護を目的として行います。また、子ども本人も、申し立てることができます。
しかし実際には、親権の喪失が家庭裁判所に認められることはほとんどありません。親権を喪失すると親子関係には戻れるチャンスを永久に失ってしまうため、慎重にならざるを得ないのです。
親権の停止
平成23年6月の法改正では、「親権の停止」が定められました。親権の停止は、親権の喪失に代わるゆるやかな措置です。最長2年間、親権を喪失しないまま停止することができます。この間に、親権者の問題改善を行い再び親子関係を結ばせるのが狙いです。
親権の停止期間は、家庭裁判所が親権者と子どもの状況を見定めて決定します。
申し立てを行うことができるのは、親権の喪失の場合と同様で、子ども本人と子どもの親族、未成年後見人、未成年後見監督人、検察官、児童相談所所長(児童福祉法第33条の7)が行うことができます。
未成年後見人の選定
親権の喪失や親権の停止が行われたときは、親権を喪失したその父又は母は、遅滞なく未成年後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければならず(民法841条)、家庭裁判所では親権者がいなくなった子どものために未成年後見人を選任します(民法840条、838条)。
なお、仮に離婚後に親権者となった親が親権を失ったとしても、親権のない方の親に自動的に親権が復活することはありません。親権のない方の親が親権を復活させることを望む場合は、自分で親権者変更の申立て(民法819条6項準用)をする必要があります。
未成年後見人選任の必要書類を家庭裁判所に提出した後、その未成年後見人候補者の面接が行われ、未成年後見人にふさわしいかどうか審査されます。
未成年後見人は子どもの財産の調査をし、1か月以内に財産目録を作成します(民法853条)。また子どものために、毎年支出すべき金額の予定をたてなければなりません(民法861条)。さらに後見が終了したときは、2か月以内に財産管理の計算をする義務があります(民法870条)。
親権のない方の親が親権者とならず,未成年後見人選任の申立てがなされる場合には、個人としては,未成年者の親族や,弁護士などの専門職後見人が未成年後見人として選任されることがあり,法人としては,児童養護施設を運営する社会福祉法人,児童の権利擁護の活動を行う法人,弁護士法人等が未成年後見人として選任されることがあります。
未成年後見人選任の申立てには、福岡家裁では次の書類が必要となります。
申立書類
- 申立書類1「申立書」
- 申立書類2「未成年者に関する質問票」
- 申立書類3「候補者質問票」
- 申立書類4「親族関係図」
- 申立書類5「同意書」
- 申立書類6「未成年者の財産目録」
添付書類
- 添付書類1「未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)」
- 添付書類2「未成年者の住民票または戸籍附票」
- 添付書類3「未成年後見人候補者の戸籍謄本(全部事項証明書)」
- 添付書類4「未成年後見人候補者の住民票または戸籍附票」
- 添付書類5「未成年者に対して親権を行うものがないこと等を証する書面(親権者の死亡の記載された戸籍(除籍、改製原戸籍)の謄本(全部事項証明書)や行方不明の事実を証する書類など)」
- 添付書類6「未成年者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書(未登記の場合は固定資産評価証明書)、預貯金及び有価証券の残高が分かる書類(通帳写し、残高証明書等)など)」
- 添付書類7「利害関係人からの申し立ての場合、利害関係を証する資料」
- 添付書類8「親族からの申し立ての場合、戸籍謄本(全部事項証明書)など」
費用
- 収入印紙800円分(未成年者1人につき)
- 連絡用の郵便切手
親権に関連して、監護者について若干説明します。
監護者
親権者と監護者を分ける場合
通常は子どもを引き取った親が親権者となります。そして同時に、親権者は子ども監護権者となります。
ですが、例外的に親権者と監護者を分けることがあります。たとえば、親権者は父親だけれども、母親が監護者となって子どもを引き取り、一緒に生活することが可能です。
また、監護者は親に限定されているわけではなく、たとえば祖父母を監護者にすることもできます。
監護者であることを証明するには
戸籍には親権者の名前しか記載されません。このため、離婚協議書や公正証書などに、親権者と監護者が分けられたことを明記する必要があります。調停や審判で決定した場合には,調停調書や審判書で証明することになります。
口約束のままにならないように注意してください。
最後に
以上が親権者の変更に関する解説です。
実際の申立時には管轄の家庭裁判所に問い合わせをして必要な書類を改めて確認する必要があります。
親権者の変更は、当事者本人で行うこともできますが、代理人の弁護士に依頼してすることもできます。主張内容の整理や組み立て、書類の提出などについても、戦略的に行った方が良い場合が多いですので、調停をお考えの方、調停を起こされた方は、ぜひ、当事務所にご相談ください。
また、親権者の変更の問題ついて詳しく知りたい、手続きがよくわからないなどで悩んでいる場合も、当事務所にご相談ください。
本コラムは平成30年9月6日に執筆されたものです。記載内容につきましてはその時点の情報をもとに作成されております。また、内容に関しましては、万全を期しておりますが、内容全てを保証するものではありませんのでご了承ください。