婚約の解消(婚約破棄)
婚約は、結婚には至っていない関係ですが、結婚に準じて一定の法的保護が認められています。婚約が正当な理由なく不当に破棄された場合には、損害賠償などの問題を生じることがあります。
婚約
婚約とは、一般的には、男女間で将来の結婚を約束することをいいます。法的には契約の一種で、要式は問われませんので、口約束であっても成立します。婚約の際に、結納を行ったり、婚約指輪の交換をすることがありますが、それらは、必ずしも婚約に必要な条件ということではありません。
ただし、婚約といっても様々なレベルの関係があり、交際を始めた当初に将来結婚しようねと話をしたというものから、長年交際を重ね、両家への挨拶も済ませ、結婚式を数か月後に控えているというものまで様々なものがあります。いわば、将来の多様な可能性の余地を残した柔らかい関係から、結婚の確度が極めて高い強固な関係までさまざまなものがあるわけですが、一般的には、将来の結婚の確実性が高い関係ほど、結婚に準じた法的保護が受けられることになります。
婚約も契約の一種ですので、約束に違反すれば契約違反の責任を問われることがあります。正当な理由のない不当な婚約破棄は違法行為となり、場合によっては、損害賠償ができることがあります。
保護される可能性のある婚約
男女の関係で、二人が付き合っているといっても、友達、友達以上恋人未満の関係、恋愛関係、交際関係、婚約予定、婚約など、様々なものがあります。先ほど説明したとおり、将来の結婚の確実性が高いほど、結婚(婚姻)に準じた法的な保護が認められることになります。他方で、結婚するまでは自由な恋愛が認められ、交際相手を選ぶこと、交際を継続するか、解消するかを選ぶこともでき、多様な恋愛経験を重ねるということも一般的に多くあります。
法的に保護され得る婚約に至っているのかは、実際には二人の関係の実態を見る必要があります。
一般的には、婚約に至っていない関係の場合には、損害賠償等の問題は生じません。たとえば、「彼女や彼氏に高価なプレゼントをしたのに、浮気されて一方的にフラれてしまった」というようなケースもあると思います。しかし、浮気が不適切な行為であることは当然ですが、婚約に至っていない場合は、結婚詐欺にあたるなどの例外的な場合でない限り、損害賠償の問題までは生じません。
ところで、付き合っている男女の間で婚約の成否を巡ってトラブルになることもあります。双方の認識のズレが原因の場合もありますが、一方が突然結婚するつもりはなかったので婚約はしていないなどを言い出すこともあります。
そのため、婚約の成否を巡って争いがある場合は、交際の経過や婚約を裏付けるような出来事から婚約が成立していることを証明する必要があります。
婚約をどのように証明するか
最初に説明しましたが、婚約も契約の一種と考えられています。契約ですから、婚約の合意書や契約書があれば合意の成立は証明できますが、通常はそのような書面は作成しません。そうすると、直接書面で合意を証明することは困難ですので、二人の交際の経過や婚約を裏付けるような出来事(間接的な事実)から、婚約の成立を証明していくことになります。
交際の経過については、例えば、メール、SNSなどのやりとり、写真、動画、日記、ブログ、友人の証言などから、二人の交際の実態が証明できることがあります。
また、両家への挨拶、結納、婚約指輪の購入、結婚式場・新婚旅行の予約など、結婚前によく行われる出来事から、婚約の成立を証明できることもあります。
婚約は、二人の間の問題ではありますが、いざそれを証明となると、第三者から見ても婚約していたことが推認できる客観的な事実(証拠)が必要となります。
婚約の不当破棄
婚約は、将来の結婚の約束ですので、結婚ができないとなれば解消せざるを得ません。
解消の理由は、正当な理由があるものもあれば、正当か不当か判断しがたいもの、正当な理由がない明らかに不当なものまで様々です。
不当なものの例としては、婚約をしたが、浮気をされた、実は相手が結婚していた(不倫、不貞)、ある日突然一方的に婚約破棄を通告されたなど、様々なケースがあり、これが違法と評価できる場合には、損害賠償請求ができます。
正当な例としては、お互いの性格、価値観、人生観が合わず、話し合いを経てやむなく婚約破棄・婚約解消に至るものもあり、このような場合には、通常、損害賠償は請求できません。
婚約解消が不当か正当かは一概に判断できない場合も多いですので、婚約解消を申し出る場合には、自分の都合だけでなく、相手のこともよく考え、よく話し合い、理解を得る努力が必要でしょう。
損害賠償
正当な理由のない不当な婚約破棄の場合には、相手方に対して損害賠償請求ができる場合があります。
その場合に損害賠償の対象になるものは以下のとおりです。
慰謝料
正当な理由のない不当な婚約破棄によって精神的苦痛を被った場合には、精神的損害の賠償として、慰謝料の請求ができます。
ただし、婚約を解消して辛いというだけでは慰謝料請求はできません。先ほどから説明しているように違法行為と評価できる正当な理由のない不当な婚約破棄によって精神的苦痛を被ったという関係が必要です。
その他の損害
婚約破棄によって発生した損害について損害賠償請求ができるわけですが、婚約指輪、結婚指輪の購入費用、結納金、結婚式場や新婚旅行のキャンセル料、新居にかかる費用などが損害賠償の対象になることがあります。
また、結婚に備え、専業主婦になるために退職してしまったような場合、退職から再就職までの期間の収入などを損害として請求できる場合もあります。ただし、自分の意思だけで退職していたような場合は、請求はできません。
過去の事例では、中絶費用が問題となったケースもあります。
婚約解消に伴うその他の問題
正当な理由のある婚約解消でも、金銭的な清算が問題となる場合があります。婚約を解消すれば、結納金を受け取る理由はなくなりますのでこれを返還する、将来の結婚を前提にもらった婚約指輪を返還する、結婚指輪の購入費用を精算することもありますし、結婚式場や新婚旅行のキャンセル料などを精算する場合もあります。
これらの点については、二人で話し合いにより解決を図るのが一般的です。
トラブルが生じた場合
男女の交際を巡ってトラブルが起きた場合、まずは当事者間での話し合いが重要です。婚約を巡るトラブルについてもその点は同じですが、やはり結婚というお互いの将来を大きく左右する問題ですし、場合によっては損害賠償等の問題が生じることもありますので、自分の都合だけでなく、相手の都合や将来のこともしっかり考えて誠意をもって話し合うことが重要です。
本コラムは平成30年11月21日に執筆されたものです。記載内容につきましてはその時点の情報をもとに作成されております。また、内容に関しましては、万全を期しておりますが、内容全てを保証するものではありませんのでご了承ください。